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第7章 航海機器・無線機器
7.6 レーダー
7.6.1 レーダー波の伝播と最大探知距離
(1) 伝 播
  レーダー電波は極く僅かであるが地球の局面に沿って伝播する性質がある。
  この特性は電波が伝播する大気層の密度の差によって異なるが、正常な伝播状態ではレーダー電波の
  水平線までの距離 D ( N, M ) は光学的水平線までの距離 (D) に対して10%長くなり次式で示される。
図7.6.1 目標物の高さと最大探知距離(遠距離)
(2) 遠距離効果
  遠距離にある高い山とかダクトによる異常伝播時、水平線以下にある物標などがレーダー
  の使用レンジ以遠であっても映像としてあらわれることがある。
図7.6.2 遠距離効果
例) ケース1:通常の場合
 例)ケース2:大気が冷たく、海水が温かい場合
 例)ケース3:大気が暖かく、海水が冷たい場合
 ケース4:大気は低い層で暖か、高い層で冷たく、海水が冷たい場合

7.6.2 レーダー偽像
(1) 二次反射像  
図7.6.3 レーダー偽像(二次反射像)


(2) 多重反射
図7.6.4 レーダー偽像(多重反射像)


(3) サイドロープ
図7.6.5 レーダー偽像(サイドロープ)


(4) レーダ干渉
 同一周波数帯を使用している他のレーダーが近くにあると干渉によって多数のはん点となってあら
われるものをいう。
 はん点はいろいろなあらわれ方をしたり、また常に同じ所にあらわれないので物標の映像と判別で
きることが多い。
図7.6.6 レーダー偽像(レーダ干渉)


(5) 影
 虚像とは異なるがレーダー空中線の設置にあたって注意すべきは影である。
レーダー空中線の装備位置の近くにあるマストや煙突でレーダー電波がさえぎられ、その方向にある
物標が映像として画面にあらわれにくくなることを言う。
 影があるかないかを調べるには海面反射を見てその映像にうすい所か、あるいは見えない所がある
かどうかを調べればよく、このような影は常にその方向が一定している。
 また、(3)サイドロープで記述したように、この領域内は偽像が発生しやすく、目標から反射される信号
強度も低下するため、目標が信号処理等により除去される場合もある。
図7.6.7 レーダー偽像(影)

7.6.3 減衰特性
 (1) 周波数帯の特性
   レーダー波は電磁波であり大きくS,C,X,Kバンドに別れ、周波数帯に応じて特性が変わります。
   一般的に周波数が低いと、物標の探知距離は伸びるが、方位距離分解機能は低下する。周波数が高くなるとその逆になる特性がある。
   船舶においては中−遠距離探知用としてSバンドレーダー(3GHz)、近−中距離探知用としてX-バンドレーダー(9GHz)と併用して使われる
   のが一般的である。(表7.6.1参照)
     @X-バンドレーダー:波長が短いため雨や雪による減衰が大きい。
     AS-バンドレーダー:波長が長いため雨や雪による減衰が小さい。
 (2) 減衰特性
   レーダー波は以下の条件によって減衰する。
    @距離による減衰(距離の二乗に反比例)
    A雲や雨、雪による吸収及び散乱
    B大気ガスによる吸収(主に酸素及び水蒸気)
表7.6.1 波長区域と特徴
名称
バンド
波長
[cm]
周波数帯 探知距離 分解能
[方位・距離]
降雨量による減衰[db/km]
16mm/H 4mm/H 1mm/H
S 10 3GHz 遠距離 低い 0.122 0.017 0.0024
C 5 5GHz S,Xの中間 S,Xの中間 0.145 0.021 0.0032
X 3 9GHz 中距離 高い 0.373 0.064 0.011
K 0.9 27GHz 短距離 極めて高い 3.37 0.286 0.042
    備考1. レーダー周波数帯区分で使用されるS・C・X・K等の名称は、戦中暗号として使用されてたもので特に意味はない。
       2. 円偏波空中線を使用すると、雨、雪、霧の影響を受けにくい。ただし、同じ大きさの空中線ならば、若干 感度が下がる。
 (3) 海面反射による影響
    減衰とは直接関係しないが、海況が荒れるにつれ海面反射が強くなり、特に中距離以下では物標の識別が困難になる。現在は技術が進み
  海面反射と物標の識別が進歩した。
    以下に  海況階級表を示す
表7.6.2 シーステイト
ダグラス
シーステイト
平均風速
(ノット)
有義波高(m) 海況
0 <4 <0.2 平坦、大変穏やか
1 5-7 0.6 穏やか
2 7-11 0.9 さざ波
3 12-16 1.2 普通
4 17-19 2 荒れている
5 20-25 3 かなり荒れている
6 26-33 4 高い
    備考1. 有義波高は、高い方から3分の1の波の平均波高(山から谷まで)として定義される。個々の波及び又はうねりは、重合して著しく高い波
        になり、物標を不明瞭にする結果をもたらすかも知れない。本表は、局地的な風によって形成される波のみに適用されるものである。
       2. シーステイトの評価の主観的性質のため、本表の値は、おおよそのものである。
       3. うねりは、波高の評価を大変困難にする。